今回は「素養検査ニ関スル筆記」の第二弾で「徒手」の章である。
内容とは直接関係ないが漢字や語彙に於て現代では殆ど見かけなくなった表現が散見されたので、それらについてもググってみた。
解読結果は以下の通り。
***********************
第一章 徒手
一、不動ノ姿勢
[要旨]不動ノ姿勢ハ教練基本ノ姿勢ナリ
故ニ常ニ精神内ニ充溢シ外厳肅端正ナラザル
ベカラズ
[號令]気ヲ著ケ
[要領](イ)両眼ハ正シク開キ前方ヲ直視ス
(ロ)両肩ヲ稍々後ロニ引キ一様ニ下ゲ (ハ)両膝ハ
凝ラズシテ伸バス (ニ)両踵ヲ一線上ニ揃エテ
之ヲ著ケ両足ハ約六十度ニ開キテ齊シク
外ニ向ク (ホ)掌ヲ股ニ接シ指ハ軽ク伸バシテ
竝ベ中指ヲ概ネ袴ノ縫目ニ當ツ (ヘ)両臂
ハ自然ニ垂ル (ト)上體ハ正シク腰ノ上ニ落着
ケ背ヲ伸バシ且少シク前ニ傾ク (チ)口ヲ閉ヅ
(リ)頸及頭ヲ真直ニ保ツ
二、休憩
[號令]休メ
[要領]先ヅ左足ヲ出シ爾後片足ヲ舊ノ所ニ
置キ其ノ場ニ立チテ休憩ス 休憩中ト雖モ
許可ナク話スコトヲ禁ズ
三、右(左)向 半右(左)向 後向
1.右(左)向
[號令]右(左)向ケ右(左)
2.半右(左)向
[號令]半(ナカバ)右(左)向ケ右(左)
[要領]イ、左足尖ト右足トヲ少シク上ゲ
ロ、左踵ニテ九十度或ハ四十五度右(左)
ニ向キ
ハ、右踵ヲ左踵ニ著ケテ同線上ニ揃ウ
3.後向
[號令]廻ワレ右
[要領]イ、右足ヲ其ノ方向ニ引キ足尖ヲ僅
カニ左踵ヨリ離シ
ロ、両足尖ヲ少シク上ゲ
ハ、両踵ニテ後ロニ廻ワリ
ニ、右踵ヲ左踵ニ引著ク
四、行進
[要旨]行進ハ勇往邁進ノ気概アルヲ要ス
1.速歩行進
[號令]前ヘ進メ
[要領]速度ハ一分間ニ百十四歩ヲ基準ト
ス 頭ヲ真直グニ保チ口ヲ閉ジ両臂ヲ自
然ニ振ル 両眼ハ正シク開キ前方ヲ直
視ス
1.左股ヲ少シク上ゲ脚ヲ前ニ出シ
2.左脚ヲ伸バシツツ蹈著ケ同時ニ概ネ膕ヲ
伸バシ体ノ重ミヲ之ニ移ス
3.左足ヲ蹈著クルト同時ニ右足ヲ地ヨリ離シ
左脚ニ就テ示セル如ク右脚ヲ前ニ出シテ
蹈著ケ行進ヲ續ク
2.停止
[號令]分隊止レ
[要領]後ロノ足ヲ一歩前ニ蹈出シ次ノ足ヲ
引キ著ケテ止ル
3.行進間ノ右(左)向
[號令]右(左)向ケ前ヘ進メ
[要領]イ、左(右)足尖ヲ内ニシテ約半歩前ニ蹈著ケ
ロ、体ヲ右(左)方ニ向ケ
ハ、右(左)足ヨリ新方向ニ行進ス
4.行進間ノ後向
[號令]廻レ右前ヘ進メ
[要領]イ、左足尖ヲ内ニシテ約半歩前ニ蹈著ケ
ロ、両足尖ニテ後ロニ廻ワリ
ハ、續イテ行進ス
5.歩調止メ
[號令]歩調止メ
[要領]正規ノ歩法ニ依ルコトナク速歩ノ歩長
ト速度トニテ行進ス
6.歩調取レ
[號令]歩調取レ
[要領]正規ノ歩法ヲ取ル
7.駈歩行進
[號令]駈歩進メ
[要領]速度ハ一分間ニ約百七十歩トス
1.「駈歩」ノ豫令ニテ不動ノ姿勢ノ儘右
手ヲ握リ腰ノ髙サニ上ゲ肘ヲ後ロニスルト
共ニ左手ニテ剣室ヲ握ル(剣ヲ帯ビタル場
合)
2.「進メ」ノ動令ニテ両脚ヲ少シク屈メテ左股ヲ
僅カニ上ゲ
3.右足ヨリ約八十五糎ノ所ニ蹈著ケ次ニ左脚
ト同法ヲ以テ右脚ヲ前ニ出シ
4.常ニ体ノ重シヲ蹈著ケタル足ニ移シ続イテ
行進ス
8.駈歩ヨリ停止
[號令]分隊止レ
[要領]二歩行進シ後ロノ足ヲ一歩前ニ
蹈出シ次ノ足ヲ引著ケテ止リ剣室放
ツト共ニ右手ヲ下ロス
9.駈歩ヨリ速歩
[號令]速歩進メ
[要領]二歩行進シタル後速歩ニ移リ剣室
ヲ放ツト共ニ右手ヲ下ロシ續イテ行進ス
10.駈歩間ノ諸動作
[要領]駈歩間ノ諸動作ハ速歩行進間ニ於
ケル要領ニ準ズ 但シ速歩ニ於ケルヨリモ二歩
多ク行進シタル後動作ス
***********************
飽くまで機械的な説明なのだが、[行進]の部分に「勇往邁進ノ気概アルヲ要ス」とあるのが面白い。現代であれば「元気いっぱいに」のような感じであろう。
語彙としては
・徒手 :手に何も持っていないこと。(第二章に[小銃]があるのでそれとの対比であろう)
・稍々 :「やや」
・齊シク:「ひとしく」 齊には、そろう・ひとしい・平ら・揃える等の意味がある。
・股 :「もも」 どちらかというと「また」の方が主のような漢字であるがここに於ては「もも」である。
・速歩 :「はやあし」
・駈歩 :「かけあし」
注)「剣室」の”室”は本来”革ヘンに室”と云う字なのだが、当該フォントに存在しないため”室”とした。
速歩の要領が「速度ハ一分間ニ百十四歩ヲ基準トス」、駈歩は「速度ハ一分間ニ約百七十歩トス」と結構細かいのにも驚いた。そのくらい全体が細かく統率されていないと軍隊としての力が十分に発揮できないと云う事なのかもしれない。