昭和20年1月1日 三郎から父芳一への巻き手紙 謹賀新年 聖戦第五年目も勝利に明け…

今回は三郎が父芳一に宛てた巻き手紙。

昭和二十年の年賀の挨拶として巻き手紙の形で認められている。

陸軍予科士官学校として生徒全員がこの様な”年賀状”を認めたのか三郎が個人的に認めたのか定かではないが、最後の辺りに「候文不出来の所御訂正をお願い致します」とあるのをみると、どうやら慣れない候文の訓練等で生徒全員が認めたのではないかと思われる。

昭和二十年元旦 三郎から芳一への巻き手紙①
昭和二十年元旦 三郎から芳一への巻き手紙②
昭和二十年元旦 三郎から芳一への巻き手紙③
昭和二十年元旦 三郎から芳一への巻き手紙④

解読結果は以下の通り。
注)■■は芳一の知己で東京在住の方。
康男や三郎が上京した際にお世話になった。

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謹賀新年
聖戦第五年目も勝利に明け我等
は皇國の彌榮を冒頭に祈願致し候
将校生徒として否醜の御楯としての最
初の新春に候へば何となしに意義深き
印象に残るものを感じ居り候も時局は
非常を超え驕敵米鬼は我が神州
を覬覦し止まざる状態に候へば冬期休暇
も僅かに東京付近に直系尊族の住
居し居る者 大阪等々相当遠距離なるも右記人
上京せる場合は許可せられ候
のみに三泊四日間を與へられし程に候間
歸郷御尊顔を拝する事叶はず候
我が家に居らる四人にて楽しく御過し
被遊る事御拝察申上候
私も外出致さば■■様方に御厄介を
御掛け申す心算に候へば
父上よりも宜しく御礼申上被下度候
如是謂ひ居る際にも康男兄様は
南方決戦場比島に於て晝夜を別
たぬ激戦を續行されつつあるやも不知所候
我身の幸福を不可忘却一刻も早く
一人前と可成く努めざる不可所御座候
昨年の此頃は御母上は病床に在られ候も
康男兄様時々歸宅され敬兄様私
等も居り家内打揃ひし事にても本年は
左様に之無く淋しき事とても
母上壮健にあらせられ敬兄様も殆ど全快
されし由私達二人の不在をも補ひて餘り
ある事に存じ上候
一生の問題たる兵科も私事にして只〃
命のまヽ區隊長海老澤英夫大尉殿
にお任せ致し居り候 為念区隊長殿
の御芳名を記し置き候間
御誤り無之き様御願申上候
十二月廿一日出の御芳翰本廿五日受
取り年賀と共に以上書述候
嚴寒の砌り尚〃御躰に御配慮
の程遙かに振武臺上より御祈り
申し上候
敬具
昭和二十年元旦
三郎
父上様

追伸
日附けには廿年と書きましたが十二月廿五日に認めました
小包東京に送られずば書籍・文房具として學校
にお送り下さるゝもよくあります(■■様へ送られずば)
候文不出来の所御訂正をお願い致します

敬兄様
余り動ず元の立派なる躰に一日も早く
なって下さい 風邪は絶對引かざる様
御注意下さい

芳子殿
作業等に負けずしっかり勉強して
この立派な成績を落さない様に
くれぐれも躰に氣をつけて
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あまり馴染みのない語彙があったのでググってみた。

・彌榮:いやさか、いやさかえ、やさかえ、やさか、やえい と複数の読みがある。主に「一層栄える」という意味。「万歳」に意味が近く、めでたい意味でも使われる。
・醜の御楯:しこのみたて。天皇の楯となって外敵を防ぐ者。武人が自分を卑下していう語。「今日よりは顧みなくて大皇(おおきみ)の 醜の御楯と いふ物は 如此(かか)る物ぞと 進め真前(まさき)に」と云う万葉集に歌より。
・覬覦:きゆ。 身分不相応なことをうかがいねらうこと。非望を企てること

冒頭「聖戦第五年目も勝利に明け…」と始まっているが、実際には「時局は非常を超え驕敵米鬼は我が神州を覬覦し止まざる状態に候へば」と本土への空襲が頻繁になり始めた時期でもあり、危機感は相当強まっていたと思われる。
実際に昭和二十年に入ってからは6大都市(東京・大阪・名古屋・横浜・神戸・京都)だけでなく地方都市への空襲も激増した。

この国家の非常時に於ては「我身の幸福を不可忘却一刻も早く一人前と可成く努めざる不可所御座候」と将校生徒としての矜持を見せてはいるものの、まだまだ17歳も青年である。帰郷して家族の顔が見たい気持ちが強く感じられる手紙である…

※追伸にもある通り19年12月25日に認められた手紙であり、前回投稿した手紙とは時系列が前後しているが表向きの日付を優先した。

 

投稿者: masahiro

1959(昭和34)年生まれ。令和元年に還暦を迎える。 終活の手始めに祖父の遺品の中にあった手紙・葉書の”解読”を開始。 戦前~戦後を生きた人たちの”生”の声を感じることが、正しい(当時の)歴史認識に必要だと痛感しブログを開設。 現代人には”解読”しづらい文書を読み解く特殊能力を身に着けながら、当時の時代背景とその大波の中で翻弄される人々が”何を考え何を感じていた”のかを追体験できる内容にしたい。 私達の爲に命を懸けて生き戦って下さった先達を、間違った嘘の歴史でこれ以上愚弄されないように…。

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