今回は三次中学同級生のYさんからの葉書。
Yさんは3月までの進学受験の結果が芳しくなく、落胆の中で三郎との葉書のやり取りを行いながら、5月末に迫った陸軍予科士官学校受験に向けて頑張っている。
解読結果は以下の通り。
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三原君、其の後元気に
て日夜将校生徒とし
ての任務に邁進している
ことと思う。降って小生も恙なく、来るべき二十八日に向い
準備を進めている。安心して
呉れ。學校も新計晝の基に
着々とその歩を進められ、今では
清潔・整頓・規律ある日課が行
われている。今日はこれにて失礼。
体を大切に。
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前(昭和18)年度に三郎が陸軍予科士官学校を受験したのが9月20日であったから、4ヶ月近く受験が早まっている。
受験する側にとっては日程が早まっただけでも大変なのに、その受験に必要な時間が戦争激化による学徒動員などに奪われてしまい満足に勉強すらできない。
受験生の焦りと不安は募りに募ったであろう…
葉書の中に「學校も新計晝の基に着々とその歩を進められ」とあるが、その「新計晝」とは当時の政府がいよいよ不利となった戦局挽回の為に非常措置として定めた「決戦非常措置要綱」の事と思われる。
具体的には
十九年二月
中等学校程度以上の学徒は「今後一年、常時之ヲ勤労其ノ他非常勤務ニ出動セシメ得ル組織体制ニ置キ必要ニ応ジ」動員することに決定した。
同 三月
「決戦非常措置要綱ニ基ク学徒動員実施要綱」を閣議決定し、動員の基準を明らかにした。この中において、
1)学徒の通年動員
2)学校の程度・種類による学徒の計画的適正配置
3)教職員の率先指導と教職員による勤労管理
などが強調された。
文部省はこの決定に基づいて詳細な学校別動員基準を決定し、三月末指令した。
※文科省HP 「トップ > 白書・統計・出版物 > 白書 > 学制百年史 > 三 戦時教育体制の進行」より
軍関係学校受験生に対しては動員先で勉強や授業等の時間が配慮された等の情報が他の同級生からの便りにあるが、軍需工場での重労働の合間の勉強では体力的にも精神的にも非常に辛いものであったに違いない。
戦後世代が経験した「受験戦争」とは比較にもならない苛烈さであったが、その「受験戦争」すらドロップアウトした小生など情けない限りである。