昭和19年3月10日 敬から三郎へ 激励の葉書

 

今回は次男(敬)からの葉書。
敬の書いた文字は初登場であるが、割と丁寧で読み易く特に難読部分はなかった。

 

解読結果は以下の通り。

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前略
無事入校した事と思う。此の非常時局下
選ばれて皇国生徒となった以上、最善を盡す
位の生易しい事では駄目だぞ。撃ちてし止まん
の気魄で寡黙豪膽死力を盡して御奉公
の誠を致せよ。上司の命に服従し自ら進ん
で何事をも為す様にせよ。但し出しゃばるなよ。
自分一個の事を考えずに天下の大計を思え。
気候の変った所に行ったのだから充分体に気を付
けて病なんかふきとばせ。
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弟の三郎への合格~入校に際しての葉書であるが、長男(康男)と同様にお祝いの言葉はなく叱咤激励(と云うよりはもう檄に近い)の内容となっている。
・撃ちてし止まんの気魄
・寡黙豪膽死力を盡して… 等々
少々過激な言葉が並んでいる。既に軍隊を経験している康男が先輩としての諸注意的な内容だったのとは対照的である。
これは小生の勝手な考察であるが、敬は康男や三郎と違い病弱でこれまで軍隊の経験がない。当時の社会情勢からすると軍隊へ応召しない(出来ない?)ことはかなりの負い目であったと思う。これは自身や親兄弟のみならず、世間や国家への負い目となっていたに違いない。この負い目が今回の葉書の文言に表れているのではないか。
もう一つは、これが陸軍予科士官学校へ届く葉書であり、当然教官(上官である軍人)の目に留まる内容であることから、自ずと過激なものになってしまったのでは…と思う。
ただどちらにしても、実の弟に本気で”死ぬまで頑張れ”なんて言う兄はいない。最後の2行
” 気候の変った所に行ったのだから充分体に気を付けて病なんかふきとばせ。”
が本音であろう。