昭和18年 三男(三郎)陸軍予科士官学校受験志願~合格手続き 関連書類vol.3

前回に引続き学科試験合格後に軍部側から届いた御祝・激励・挨拶状2枚を投稿する。

1枚目は12月4日に三郎宛に届いた広島師団兵務部長 両角少将からのもの。画像では判読出来ないと思うので”解読結果”を記す。

陸士広島師団兵務部長封筒
広島師団兵務部長 両角少将からの御祝・激励状

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私は広島師団兵務部長両角少将です
熾烈な決戦が大東亜の全地域に於て連日繰返されている時勃々たる雄
心と報国挺身の気概を凛然たる眉宇に漲らし若く逞しき諸君が例年に
見ず数多く陸軍予科士官学校を志願され而も其の数多き志願者の中か
ら選ばれて見事合格の栄誉をうけられた諸君は正に俊材中の俊材にて
衷心よりお祝い申上げると共に益々心身を練り健康に注意し晴の入校
に萬一の差支えなき様充分に注意されたいと念願する次第です
戦局は今や誠に重大なる段階に入り北に南に東に西に大御稜威の下忠
勇無比なる皇軍将兵の勇戦奮闘により赫々たる戦果を挙げつつあるの
でありますが敵米英の飽くなき非望は益々執拗に且つ強力に反攻を挑
み中部太平洋に印緬国境に将又中支に死物狂いの動きを示している事
は既に諸君の承知している通りであります
此の時に當り元気溌剌たる諸君が国軍将校として明日の戦線に活躍せ
んとし見事難関を突破し入校せらるる事は誠に重大なる意義を有する
と共に諸君の責任も又重大なりと云わねばなりません
諸君は今や合格の喜びにひたると共に胸中深く期する所あり敵米英撃
滅への強き闘魂に漲り一死国難に赴く烈々たる赤誠は溢れ国運を双肩
に擔い仇敵必滅せずんば止まざるの一念に燃え立って居る事と信じま
す此際諸君の感激と覚悟を次に来るべきものに伝え二陣三陣続くもの
への激励と致したいと思いますので諸君の意気と感激と決意を一文に
綴り私宛に是非送ってほしいと思います
では諸君が元気に入校せられ一日も早く立派な将校となり戦場に存分
の活躍せらるる様希って居ります
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少将辺りの階級の人になると大分文書内容が変って来る。まず句読点と云うかセンテンスに切れ目がない。当時は若い人でもあまり句読点など使わないのではあるが、これくらい完璧に使っていないとむしろすがすがしい。小生などはダラダラと書いてしまって読み辛くなると思い句読点を多用しがちなので参考になる。元々句読点は無学の輩に対する補助的なもので教養のある者に対して使うのは失礼であった(現代でもそう感じる方はいらっしゃる)のだから今後は出来るだけ使用を控えたい。

また激励文だから当然と云えば当然であるが、激励や気持ちを鼓舞するような言葉が非常に多い。
例えば
・勃々たる雄心
・凛然たる眉宇に漲らし
・忠勇無比なる皇軍将兵の勇戦奮闘
・赫々たる戦果
・一死国難に赴く烈々たる赤誠
・仇敵必滅せずんば止まざるの一念
など、ひと昔前の経営者が年頭の挨拶等で好んで使いそうな文言が並んでいる。まさに軍国主義的な表現である。
がしかし、このいわゆる軍国主義的な言葉や行動を一概に”ダメ”とする風潮には反対である。誤解を恐れずに云うが”使いよう”である。やる気にさせる際に使うのなら良いのに、無茶をさせるためや洗脳するために使うからダメなのである…と思う。
そうそう、もう一つ特筆する部分がある。先にあげている封筒の画像をよく見て頂くと判ると思うが、この封筒は事務用書類か何かの裏紙で作られている。更には書面自体も試験解答用紙(さすがに未使用分であるが)の裏紙である。仮にも陸軍少将の文書であるにも拘わらずである。それ程物資不足が逼迫していたと云うことなのか、或いは国民に対し質素倹約を強いている立場上のパフォーマンスだったのか…。多分その両方であろう。

さて、もう1枚は年が明けた昭和19年2月の入校直前に届いた陸軍予科士官学校生徒隊富士隊長の服部少佐から父母宛に届いた御祝・挨拶状である。

富士隊隊長 服部少佐 挨拶状

この服部少佐が三郎が配属される富士隊の隊長である。
こちらも画像では判読できないと思うので”解読結果”を記す。

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拝啓 戦闘益々苛烈を極める大東亜戦下高堂益々御清建の段奉賀候
陳者今般御子弟には年来の志望達せられ目出度入校の栄に浴せらるるに
至りしこと御本人は素より御一統様には嘸かし御満悦の御事と拝
察仕り候 御子弟には當中隊に編入せられ私共直接御世話
致す事と相成候就ては御一家の玉寶を預り訓育指導の任に
當るの責務重且大なるを自覚し粉骨砕身全力を竭して
努力仕り以て国家の要求と御父兄の御期待に副いたき
所存に御座候 惟ふに御子弟教育の爲には御家庭と當方
との終始隔意なき連携を保ち一致協力其完璧を期するに
非れば到底良果を収め得ざる事と存候間本校よりの諸注
意を熟読被下入校のための諸準備と御本人の健康増進
と中隊に対する緊密なる御協力とを願い上ぐる次第に御座候
時下折角御自愛の上目出度入校の日を御待被下度候
先は右乍畧儀御祝旁々御挨拶申逑候          拝具
   昭和十九年二月三日
            生徒隊富士隊長 陸軍少佐
                     服部征夫
 父兄各位殿
          中隊長 陸軍少佐 服部征夫
          区隊長 陸軍大尉 栗山俊明
              同    小池三郎
                   堀 貞雄
                   前田八郎
                   岡田生駒
              陸軍中尉 増澤一平
                   安藤仁一
                   海老澤英夫
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陸軍予科士官学校からのものは2通目であるが、前回のものが学校公式のものだったのに比べ、こちらは実際に生徒を受持つ隊長(担任)からのもので、手書き(ガリ版ではあるが)の多少親近感を醸したものである。
前回のものと同様”漢文調の候文”である。見慣れない語彙としては
・高堂:この場合は”御両親様”又は”御家族様”の意と思う
・陳者:”のぶれば”と読むらしく”申し上げますが…”の意
・御一統様:入校する全生徒及びその御家族皆様
・嘸かし:”さぞかし” 現代では漢字で書くことは殆どないと思う
・責務重且大:単純に”重大”とせず”重且大”としているところが興味深い
・全力を竭して:”全力をつくして”と読み”尽くして”と同意
・候間:”そうろうあいだ”と読み”間”は理由を表すらしい
・熟読被下:”熟読くだされ(り)”と読むらしい
・折角御自愛:”折角”には”全力で”の意味もあり”努めて”とか”精一杯”の意
等々沢山ある。
内容的にも前回同様に”御子弟を大事に責任を持って教育しますので御安心下さい”的な内容であるが、しかし軍隊とはあらゆる面で厳しい世界であり両親としては息子の事が心配で心配で仕方なかったようである。【次回以降の投稿での内容となるが、父(芳一)は三郎入校当日に付添ったにも拘らず、一旦帰広した後再び(三郎に内緒で)生徒隊長に面会に行っているのである。】

これらの他、陸軍予科士官学校長への身元保証書(父芳一が保証人)の提出や在学していた中学校への退学手続き等を終えて入校となる。